「ヤミ屋のオヤジ」と公文書に刻んだ不退転の覚悟 着任わずか53日の東日本大震災、伝説の国交次官が踏み越えた法規〈再配信〉 | 政治・経済・投資 | 東洋経済オンライン

法規を超越した決断——極限状態でのリーダーシップの本質

マグニチュード9.0の東日本大震災から5日後、着任わずか53日の国交省東北地方整備局長・徳山日出男は、被災自治体の市長から「国交省は必要ない」と絶望的な拒否を受けた。その瞬間、徳山は法規の枠を越えた超法規的措置を決断する。棺おけの調達まで含む、通常業務の範囲を大きく逸脱した対応を自ら指揮し、現場復旧の総指揮を執った。伝説の国交事務次官・徳山が刻んだ極限状態でのリーダーシップは、現代の経営者にとって最高の教科書である。

「役所では対応できない」という現場の叫び

宮城県仙台市で陣頭指揮を執った徳山に、岩手県陸前高田市の市長・戸羽太から衛星電話で届いたのは、冷たい返答だった。「今の修羅場で、国交省に頼むことはありません」。従来の道路建設といった通常業務では役に立たない、という絶望的な意思表示である。これまでの行政的な関係性が成立しない状況下で、徳山は「大臣からも『何でも手伝え』と言われている」と何度も繰り返し、市長の潜在的なニーズを引き出そうとした。その執念が、市長の口から漏らした一言を生み出す。「本当にいいんですか。本当にやれますか」——それは棺おけの調達という、国交省の所掌範囲を遠く外れた要望だった。

所掌範囲を超えることが、現場を救う

多くのリーダーは、ここで引き下がるだろう。行政機関は法規に縛られ、所掌外の業務は「厚生労働省の範囲では」と説明し、権限外であることを理由に断る。しかし徳山は「すぐやります」と即答した。なぜか。それは「法規よりも、現場の命が優先される」という経営判断である。自身を後に「ヤミ屋のオヤジ」と公文書に記した徳山の思考は、組織の文法よりも現場のニーズを重視する、という不退転の覚悟を示している。この姿勢は、組織内での軋轢や風評を覚悟の上での決断であり、だからこそ「伝説」と後に称される所以となった。

経営者がいま、取るべき具体的行動

  • 緊急対応時に「法規・前例・所掌範囲」を判断基準にしていないか、意思決定フローを点検する。現場のニーズと規則のどちらを優先するか、明示的に決めておく
  • 市長のような外部ステークホルダーが「貴社は必要ない」と言う場合、その背景にある潜在的ニーズを引き出す質問を用意する。徳山の「何でもいいから、困っていることは」という執拗な問い返しに学ぶ
  • 自分の判断が組織の文法を逸脱するとき、それを正当化する経営的ロジック(命・顧客・事業継続など)を言語化し、チーム・ステークホルダーと共有する

出典:東洋経済 「ヤミ屋のオヤジ」と公文書に刻んだ不退転の覚悟 着任わずか53日の東日本大震災、伝説の国交次官が踏み越えた法規

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